オリジナル脚本のオペレッタや、朗読とのコラボ、ポピュラーヴォーカルとのコラボなど、様々な場所、お客様に合わせたコンサート、舞台を企画しています!! 夙川、苦楽園がベースです。 どうぞよろしくおねがいいたします。
2017年09月02日

伊佐山紫文45

 うちにはステーキが二種類ある。
 ひとつは普通のステーキ、もうひとつは「おうちステーキ」と呼ぶ、我が家独特のステーキである。
 普段は100グラム100円を超す肉は買わないと決めているので、「おうちステーキ」もコープさん安売りの時の細切れ豚肉を使って作る。
 まずは、細切れとか、切り落としとか、まあ何でも良いが、それを適量、タレに漬け込む。
 タレは、うちではスープストックと醤油が基本、そこに片栗粉を解き混む。
 タレに漬け込んだ肉をかたまりのまま、牛脂や鶏油やバターで焼く。
 片栗粉が効いて、かたまりのまま、そのままの形で焼き上がる。
 ステーキそのもの、とは言わないが、ハンバーグステーキに近いものが出来る。
 これをうちでは「おうちステーキ」と呼んでいる。
 歯が抜け替わりの時期で、本当のステーキは食べづらい息子にもこれは大丈夫、キッチンハサミで切り分けながらガシュガシュ食べている。
 その息子の最後の乳歯が先日抜け、歯並びも歯医者に褒められるほどしっかりしており、そろそろ歯ごたえのあるメニューも用意しようかなと思っている。
「歯ごたえ」と言えば、20年ほど前、私の書いた文章への、ある雑誌の編集者の感想の言葉が胸に浮かぶ。
 それは、
「ジャンクフードを食べ慣れた顎にはたいそう堪える、歯ごたえのある文章でございました」
 とまあ、そういうもので、ちゃんとした口語に訳せば、
「少しは空気読めよ! ここはそんな硬い文章載せる場所じゃねぇだろ! 二度とお前には依頼しねぇわ。勝手に死ね!」
 みたいな感じ。
 実際、これを最後に、一切の依頼が来なくなった。
 物書きとしての死刑宣告である。
 このエッセイ「死を巡る性の神話」は、後に単行本にも入れたけれど、今読み返しても素晴らしい出来だと思う。
 最新の生物学の知見を取り入れながら世界各地の性の神話を読み説くもので、そうそう誰にでも書けるものではない。
 と、思うけれど、雑誌に載せる文章じゃない。
 あまりに密度が濃すぎ、「歯ごたえ」がありすぎる。
 今では、なんでこんなのを書いたかな、と思う。
 雑誌の仕事をやってた頃は、ちゃんと読者の方を見て、読者に分かるように書いていた。
 それが、全くのフリーになり、単行本の仕事だけをやるようになって、不特定多数ならぬ、特定少数の読者しか見えなくなっていたんだろうな。
 反省しますよ。
 でもね……
 あなたたちが思ってる、そのステーキは、実際には誰かが特別に配慮した「おうちステーキ」かも知れないんだよ。
 安い肉を片栗粉で固めただけの、本物のステーキとは似ても似つかぬ、「歯ごたえ」の全くない「おうちステーキ」。
 それをステーキとして出されて、ステーキとして食べてるだけかも知れないんだよ。
 そんなものを食べ慣れた顎には、そりゃ本物のステーキは「歯ごたえ」がありすぎるだろうさ。
 歯の抜け替わる時期には仕方ないが、大人になっても「おうちステーキ」しか食べられないなんて情けないだろ、そう思わないか?
 あれ?
 ちっとも反省してないな。
 

Posted by notebook │Comments(0)
このBlogのトップへ
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。
プロフィール
notebook
notebook
学生の頃から、ホールや福祉施設、商業施設などに呼ばれる形で歌ってきましたが、やはり自分たちの企画で自分たちの音楽をやりたいという思いが強くなり、劇作家・作詞家の伊佐山紫文氏を座付作家として私(浅川)が座長となり、「夙川座」を立ち上げました。

私たちの音楽の特徴は、クラシックの名曲を私たちオリジナルの日本語歌詞で歌うという点にあります。

イタリア語やドイツ語、フランス語などの原語の詩の美しさを楽しみ、原語だからこそ味わえる発声の素晴らしさを聴くことも良いのですが、その一方で、歌で最も大切なのは、歌詞が理解できる、共感できる、心に届くということもあります。

クラシック歌曲の美しい旋律に今のわたしたち、日本人に合った歌詞をつけて歌う、聴くことも素敵ではないかと思います。

オリジナル歌詞の歌は50曲を超え、自主制作のCDも十数枚になりました。

2014年暮れには、梅田グランフロント大阪にある「URGE」さんで、なかまとオリジナル歌詞による夢幻オペラ「幻 二人の光源氏」を公演いたしました。

これらの活動から、冗談のように「夙川座」立ち上げへと向かいました。

夙川は私(浅川)が関西に来て以来、10年住み続けている愛着のある土地だからです。
地元の方々に愛され、また、夙川から日本全国に向けて、オリジナル歌詞によるクラシック歌謡の楽しい世界を広げていきたいという思いを込めています。

< 2024年04月 >
S M T W T F S
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30        
カテゴリ
QRコード
QRCODE
アクセスカウンタ
読者登録
メールアドレスを入力して登録する事で、このブログの新着エントリーをメールでお届けいたします。解除は→こちら
現在の読者数 0人