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2017年09月04日

伊佐山紫文48

 私の記憶では、日田の秋は大原八幡の放生会に始まる。
 参道には露店が並び、たこ焼きやトウモロコシの焼ける匂いが漂い、妖しげな演し物の小屋が建ったりする。
 おそらくは仏教の殺生戒に由来する、金魚すくいや鯉釣りの露店も多く出て、幼い私も楽しんだものだった。
 神仏習合の見本みたいな祭だった。
 もう15年も前になる秋、母がガンになって、入院その他の手続きのために帰ったとき、大原八幡に参った。
 裏から自転車で昇り、大晦日以外ではほとんど来たことのない本殿の前に立つと「あれ?」と思った。
 関西で様々な寺社を見てきた目には、なんともつましい本殿だった。
 高校まで、いや、大学に通ってからも、帰省していれば、大晦日の夜には必ず通っていた大原八幡である。
 初詣の参拝客の中を泳ぐようにしてたどり着いた本殿はいかにも雄壮できらびやかで、我が日田の誇りだった。
 あの大原神社が、これか?
 少しガッカリして、それでも境内をうろつき回った。
 大江匡房(おおえのまさふさ、ごうのそつ)の筆になる額が目に入ったのはこの時が初めてだったのではないか。
 百人一首では前中納言匡房として知られ、
「高砂の 尾の上の桜 咲きにけり とやまの霞 立たずもあらなむ」
 の歌がとられている。
 この匡房と白拍子の間に生まれた子を主人公とした戯曲を、数年後、書いた。
 これは上演されることはなかったが、戯曲集には入れた。
 相撲の神様として知られる日田どん・大蔵永李(おおくらながすえ)との宿命の対決を描いたもので、仏教的な無常観をベースに『梁塵秘抄』の歌をちりばめた、夙川座では絶対に上演不可能な、素晴らしく豪華なミュージカルである。
 それはさて、私がいた頃はまだ天領祭は行われておらず、大原八幡の放生会が終わると日田の秋は一気に深まり、初雪と霜の冬が訪れるのだった。
 地球温暖化など信じてはいないけれど、昔は大晦日の参道が凍り、足を滑らせて転ぶ人を必ず見たものだ。
 そのわきを裸足で走る拳法の少年たち。
 早起き会のおじさんおばさん。
 笑みを交わす日田の人々。
 15年前、誰もいない大原八幡の境内を経巡り、私は大晦日の大群衆を幻視した。
 母はガンになった。
 父も認知症である。
 この日田との繋がりも、やがて切れてしまう。
 静かで清涼な境内に、ひとり深呼吸しながら、まだ子供のなかった私は、やがて訪れるであろう寂寞の日々を思った。
 ちなみに戦前の海軍の重巡洋艦「三隈」は、その名を日田の三隈川に由来し、艦内神社はこの大原八幡を遷座したものである。
 第二次大戦の緒戦で活躍したが、ミッドウエー海戦で沈んだ。
 
伊佐山紫文48


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プロフィール
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学生の頃から、ホールや福祉施設、商業施設などに呼ばれる形で歌ってきましたが、やはり自分たちの企画で自分たちの音楽をやりたいという思いが強くなり、劇作家・作詞家の伊佐山紫文氏を座付作家として私(浅川)が座長となり、「夙川座」を立ち上げました。

私たちの音楽の特徴は、クラシックの名曲を私たちオリジナルの日本語歌詞で歌うという点にあります。

イタリア語やドイツ語、フランス語などの原語の詩の美しさを楽しみ、原語だからこそ味わえる発声の素晴らしさを聴くことも良いのですが、その一方で、歌で最も大切なのは、歌詞が理解できる、共感できる、心に届くということもあります。

クラシック歌曲の美しい旋律に今のわたしたち、日本人に合った歌詞をつけて歌う、聴くことも素敵ではないかと思います。

オリジナル歌詞の歌は50曲を超え、自主制作のCDも十数枚になりました。

2014年暮れには、梅田グランフロント大阪にある「URGE」さんで、なかまとオリジナル歌詞による夢幻オペラ「幻 二人の光源氏」を公演いたしました。

これらの活動から、冗談のように「夙川座」立ち上げへと向かいました。

夙川は私(浅川)が関西に来て以来、10年住み続けている愛着のある土地だからです。
地元の方々に愛され、また、夙川から日本全国に向けて、オリジナル歌詞によるクラシック歌謡の楽しい世界を広げていきたいという思いを込めています。

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