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2017年10月15日

伊佐山紫文91

 私の伯母、ヒデコシャンは数々の逸話を残している。
 生涯、芥川賞を狙い続け、読売新聞には「永遠の文学少女」として、その半生が紹介されたりもした。
 この人もまた、天才に人生を狂わされた一人だった。
 弟、つまりは私の父が15かそこらで詩壇にデビューし、最年少で新日本文学会の会員になり、田舎ではスターになっていく中で、自分も、と思い込んでも仕方ない。
 世は戦後、詩と天才と才女の時代である。
 機会さえあれば、自分も、と思うのも当然である。
 ただ、問題なのは、それをず~~~~~~~~~っと思い続け、戦後などとっくに終わり、第三の新人も内向の世代も老人になって、芥川賞がもはや子供や芸人の作文に落ちぶれ果ててもなお、ず~~~~~~~~~っと思い続けたことである。
 才女としてデビューする夢は、最高齢で芥川賞を受賞する夢へと横滑りし、書けもしない小説を書き続け、何一つ完成することなく、逝った。
 それでもなにがしかの才能はあったと思う。
 だから江藤淳などはヒデコシャンの手紙には丁寧に返事を書いていた。
 自殺の前日の日付の葉書は、おそらく江藤淳の最期の手紙だと思う。
 その江藤淳が評価していた誰かの小説の名前が思い出せないヒデコシャン、
「ほら、あれ、なんやったかねぇ、なんとなく暮らしてる」
「はぁ?」
「何となく暮らしてる、とかいう小説あるじゃろうが」
「私小説で?」
「そんなんじゃねえって、江藤淳がえらい褒めた、最近の」
「江藤淳が褒めた?」
「そう。何となく暮らしてる、とか、なんとか」
「わからんねぇ」
「芥川賞の候補にもなった」
「まさか、『なんとなく、クリスタル』のこつかい」
「そうそう、それ!」
『なんとなく、クリスタル』が「何となく暮らしてる」とは、なんという素晴らしい変換、批評精神の発露に恐れ入るが、これだけじゃない。
 親戚に「源ちゃん」と呼ばれる人がいたのだが、この人が素晴らしく頭が良いと噂なのだという。
「源ちゃんちゃ、インテリちゅう噂バイ」
「源ちゃんが? なんで?」
「本屋で、インテリ源ちゃんち、みんなが言うのを聞いたバイ」
「インテリ源ちゃん?」
「そう」
「それ、ロシア語でインテリゲンツィアのことじゃなく?」
「あ、かもしれん、それバイ」
「インテリゲンツィア」が「インテリ源ちゃん」とは恐れ入る。
 田舎のインテリなんて、まさにそういうものかもしれぬと、思わず膝を打つ。
 素晴らしい批評精神の発露で、芥川賞を取れずに逝ったのが悔やまれる。

 

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プロフィール
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学生の頃から、ホールや福祉施設、商業施設などに呼ばれる形で歌ってきましたが、やはり自分たちの企画で自分たちの音楽をやりたいという思いが強くなり、劇作家・作詞家の伊佐山紫文氏を座付作家として私(浅川)が座長となり、「夙川座」を立ち上げました。

私たちの音楽の特徴は、クラシックの名曲を私たちオリジナルの日本語歌詞で歌うという点にあります。

イタリア語やドイツ語、フランス語などの原語の詩の美しさを楽しみ、原語だからこそ味わえる発声の素晴らしさを聴くことも良いのですが、その一方で、歌で最も大切なのは、歌詞が理解できる、共感できる、心に届くということもあります。

クラシック歌曲の美しい旋律に今のわたしたち、日本人に合った歌詞をつけて歌う、聴くことも素敵ではないかと思います。

オリジナル歌詞の歌は50曲を超え、自主制作のCDも十数枚になりました。

2014年暮れには、梅田グランフロント大阪にある「URGE」さんで、なかまとオリジナル歌詞による夢幻オペラ「幻 二人の光源氏」を公演いたしました。

これらの活動から、冗談のように「夙川座」立ち上げへと向かいました。

夙川は私(浅川)が関西に来て以来、10年住み続けている愛着のある土地だからです。
地元の方々に愛され、また、夙川から日本全国に向けて、オリジナル歌詞によるクラシック歌謡の楽しい世界を広げていきたいという思いを込めています。

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