オリジナル脚本のオペレッタや、朗読とのコラボ、ポピュラーヴォーカルとのコラボなど、様々な場所、お客様に合わせたコンサート、舞台を企画しています!! 夙川、苦楽園がベースです。 どうぞよろしくおねがいいたします。
2017年10月19日

伊佐山紫文92

 父親が開いた喫茶店の名前は「画廊喫茶ムンク」。
 これからも分かるように、両親共に美術には並々ならぬ関心があった。
 本棚には一冊数千円もするような西洋画の画集がずらりと並び、幼い私と弟は、その中から恐ろしい絵を探して楽しんでいた。
 シュルレアリスムやダリに親しむのはもっとあと。
 まずはボスやブリューゲルがお気に入りだった。
 ボスの「快楽の庭」とかブリューゲルの「死の勝利」など、弟と眺めながらギャーギャー騒いでいたものだ。
 どちらが多く怪物を探すか。
 どちらが気色の悪い死体を探すか。
 それにしても、こんな気色の悪いモノが美術なのか、芸術なのか。
 ということで、大阪で開かれている『ブリューゲル「バベルの塔」展』に行ってきた。
 ものすごい人かと思えばそうでもなく、じっくりボスやブリューゲルを観ることができた。
 結論から言えば、この20年以上、運慶快慶の仏像を観まくり、琳派や浮世絵に親しんだ目で観れば、正直、ボスもブリューゲルも大したことない。
 それでも、幼い頃に複製で観た絵を実物で見ると、何とも言えぬ感慨である。
 ブリューゲルの「大きな魚が小さな魚を食べる」。
 これも幼い頃、強烈な印象を受けた1枚である。
 弱肉強食を寓意したもので、寓意そのものよりも、絵面の気色の悪さに惹かれた。
 ああ、この原画(と言っても版画だが)を観る日が来ようものとは……
 今回の目玉である「バベルの塔」は遠くから眺めることしか出来なかったが、その小ささに驚いた。
 この小さいキャンバスによくこれだけの情報を詰め込んだこと!
 それよりも、この小ささにもかかわらず、観るものを圧倒してくるこの構図!
 これは、北斎がおそらく、やろうとして出来なかったことだろう。
 琳派や浮世絵と西洋画の差。
 それは「神」の存在だろうと思う。
 神から観た視点で描けるかどうか。
 神が脅威と感じるほどの圧倒的な存在感を、この小さなキャンバスに描き出すこと。
 細部にまで細心の注意を払い、まるで今、そこで工事が行われているかのように描き出す。
 天上の神から観て「これはヤバイ」と思わすような勤勉さで進む工事。
 漆喰で全身真っ白になりながら、それでも進む工事。
 煉瓦はつるべで次々と上に運ばれてるし。
 この現場ではもちろん、同一の言語で指揮命令系統が動いており、言語こそが「バベルの塔」の工事を進める要である。
 だからこそ、神は、言語をバラバラにする。
 現場では意思疎通が出来なくなり、工事は中断し、神の地位は安泰になる。
 なんともムチャクチャな神ではあるが、仕方ない。
 一神教の神とは、まあ、こういうものだし。
 そんな神がいない日本で「バベルの塔」が描かれなかったのは当然だろう。
 会場の出口近くで上演されている解説映画を観るため、急いで最前列に座ったら、隣に妻が座ってきた。
 入り口で別れ、勝手に好きなのを好きなだけ観ていたはずなのに、偶然。
 結婚して30年、外見だけでなく、行動様式も似てきたということか。
 あまりのことに顔を見合わせて、一瞬、お互い「ククッ」と笑った。
 

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プロフィール
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学生の頃から、ホールや福祉施設、商業施設などに呼ばれる形で歌ってきましたが、やはり自分たちの企画で自分たちの音楽をやりたいという思いが強くなり、劇作家・作詞家の伊佐山紫文氏を座付作家として私(浅川)が座長となり、「夙川座」を立ち上げました。

私たちの音楽の特徴は、クラシックの名曲を私たちオリジナルの日本語歌詞で歌うという点にあります。

イタリア語やドイツ語、フランス語などの原語の詩の美しさを楽しみ、原語だからこそ味わえる発声の素晴らしさを聴くことも良いのですが、その一方で、歌で最も大切なのは、歌詞が理解できる、共感できる、心に届くということもあります。

クラシック歌曲の美しい旋律に今のわたしたち、日本人に合った歌詞をつけて歌う、聴くことも素敵ではないかと思います。

オリジナル歌詞の歌は50曲を超え、自主制作のCDも十数枚になりました。

2014年暮れには、梅田グランフロント大阪にある「URGE」さんで、なかまとオリジナル歌詞による夢幻オペラ「幻 二人の光源氏」を公演いたしました。

これらの活動から、冗談のように「夙川座」立ち上げへと向かいました。

夙川は私(浅川)が関西に来て以来、10年住み続けている愛着のある土地だからです。
地元の方々に愛され、また、夙川から日本全国に向けて、オリジナル歌詞によるクラシック歌謡の楽しい世界を広げていきたいという思いを込めています。

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