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2017年08月19日

伊佐山紫文30

歌われるあてもなく……

「冬の旅」全訳 
ヴィルヘルム・ミュラー詩
訳詩(歌詞化)伊佐山紫文

1「おやすみ」

 暗き雪路を一人歩み
 我は出て行くこの村から
 恋の宴はとうに終わり
 永遠の誓いも徒(あだ)と消えぬ
 冬の嵐を越えて行かん
 冬の嵐を越えて行かん

 月影射して嵐は止み
 光りにたどる獣の道
 歩みを止めて見上ぐる空
 月影だけぞ心の友
 余所者我は一人行かん
 余所者我は一人行かん

 流離(さすら)う定め、追われずとも
 吠えたてよ犬、主人のもと
 愛の言葉の儚(はかな)きこと
 そは神の成す奇(く)しき業(わざ)ぞ
 脚は向き行きぬ、お前のもと
 最後に一目、窓越しにも

 暖炉の灯り部屋に満ちて
 雪を照らしぬ、窓を越して
 懐かし灯り、歩み寄れば
 灯りは消えぬ、睡りの時
 再び歩む、この雪路を
 お前に捧ぐこの一言
 ただ「おやすみ」

2「風見の旗」

 風は吹くこの胸に
 あの日のままに
 忘れもしない日々
 愛を信じていた
 
 知らぬ間に愛は去り
 嫁ぎ行くお前
 騙された我のみ
 この村を去ろう

 風は吹く、冷たく
 この胸貫き
 誰かに抱(いだ)かれた
 花嫁のお前
 
 風は吹く、冷たく
 この胸貫き
 誰かに抱かれた
 誰かに抱かれた
 花嫁のお前

3「凍れる涙」

 涙の雫 我が頬伝う
 命の証し 頬を伝う
 頬を伝う

 涙 涙よ
 生暖かき
 それでもすぐに凍りゆくか

 胸の炎は泉となり
 熱き涙で冬を融かせ
 冬を融かせ

 胸の炎は泉となり
 熱き涙で冬を融かせ
 冬を融かせ

4「凍れる大地」

 吹雪の中に探し求め
 この胸去らぬお前の影
 手を取り合って歩んだ道
 緑の道はどこに消えし

 雪に埋もれし大地求め
 熱き涙で溶かしゆく
 氷を
 雪に埋もれし大地求め
 熱き涙で溶かしゆく
 氷を

 緑の大地 花も香り
 あの日の光り どこに消えし
 あの日の光り どこに消えし
 緑の大地 花も香り

 この傷癒えし その時には
 想い出もまた 消え行くのか
 この傷癒えし その時には
 想い出もまた 消え行くのか

 凍てつく心 その内には
 お前の姿 心に抱(いだ)きぬ
 凍てつく心 融け行くとき
 想い出もまた 消え行く
 消え行く 消え行く

5「菩提樹」

 泉のほとり 影を映し
 茂る菩提樹 我を抱きぬ
 愛の言葉を いつか憶え
 夢に遊びし 幼き頃 

 今日もさすらい 旅にありて
 暗闇の中 道も見えず
 聞こえ来るのは 甘きさやぎ
「我の木陰に 憩い眠れ」

 北風吹いて 帽子は飛ぶ
 それでも我は 歩み続く
 遠きにありて それでもなお
 耳に残るは 甘きさやぎ
「我の木陰に 憩い眠れ
 菩提樹のもと 憩い休め
 憩い眠れ」

6「ゆきどけ」

 まなこを溢れて 涙は流れ
 冷たき大地は 涙凍らせ
 涙凍らせ

 季節は春へと 風も過ぎゆき
 氷も融けゆき 大地は萌えて
 大地は萌えて

 我が想い知るや 涙の行方(ゆくえ)
 ゆきどけ混じりて 小川となりぬ
 小川となりぬ

 流れし小川は 村に至りて
 涙はたぎりぬ その家巡り
 お前の家を

7「凍れる水面」

 小川の流れ 今はやみて
 別れの時に 口を閉ざす

 厚き氷に 水面硬く
 閉ざされし今 何を思う

 石を持て今 お前の名を
 ここに埋めよう 想い出とも

 出会いの時と 別れの時
 全て埋めよう この指輪と

 今我が心 ここに見ぬか
 閉ざされたなか 猛り狂う
 冷たく燃えし

 今我が心 ここに見ぬか
 閉ざされたなか 猛り狂う
 冷たく燃えし
 冷たく燃えぬ

8「想い出」

 つま先凍えて まるで燃えるよう
 あの街の塔から 駆け逃げるように

 ゴロ石につまづき よろめきながらも
 カラスども空から 我を追い立てる
 カラスども空から 我を追い立てる

 移り気な街並み 全ては変わりぬ
 あの日の窓には 小鳥も歌い
 咲き誇る花には かぐわしき香り
 それをかぐお前の 輝く瞳よ
 香りかぐお前の 麗し瞳よ

 想い出は時には 我が心揺らす
 あの日に帰るなら 何を惜しむだろう
 あの日に帰るなら お前の窓辺へ
 あの日に帰るなら 何を惜しむだろう
 あの日に帰るなら 何を惜しむだろう
 何を惜しむだろう

9「鬼火」

 谷間に光りぬ 妖しき鬼火
 逃れるすべなど 我にはあらず
 我にはあらず

 迷いに慣れはて 怖れもあらじ
 喜び悲しみ 全ては夢か
 全ては夢か

 この谷を抜けて 我もまた行く
 全ては海へと 苦しみもまた
 全ては海へと 全ての墓へ

10「憩い」

 疲れに気付いて 身を横たえる
 さすらいの旅は はてなく続き
 歩みはひたすら 冷たい道を
 肩の荷はわずか 風に飛ばされ
 肩の荷はわずか 風に飛ばされ

 炭焼き小屋にて しばし休めよ
 体は憩えず 傷に震えし
 戦いの中 鍛えし心
 静けさの毒に 古傷痛む
 静けさの毒に 古傷痛む

11「春の夢」

 夢に見た花は 五月の野に咲き
 さえずる鳥たち 青空求めて
 青空高くへ

 朝の鶏鳴き 目を覚ませば
 部屋は冷たく 屋根ではカラスが
 部屋は冷たく 屋根ではカラスが

 誰が描きし 窓の木の葉
 我を笑うか 描きし人は
 真冬のさなかに 春を夢みし
 春を夢みし

 夢にみた愛は 乙女の愛
 いとけなきキス 幸せここに
 幸せここに

 朝の鶏鳴き 目を覚ませば
 我は一人で 夢を抱(いだ)きぬ
 我は一人で 夢を抱(いだ)きぬ

 目を閉じ思う 鼓動数え
 窓の木の葉は いつ緑に
 愛するお前と ともに笑う日は
 その日は来るのか 

12「孤独」

 流れ行く雲 空高くに
 樅(もみ)の梢に 風はすぎて

 我は歩みぬ ただ一人で
 道行く人は 笑みを浮かべて

 あぁこの静けさ! あぁこの光!
 嵐の中は 孤独ではなかった
 
 あぁこの静けさ! あぁこの光り!
 嵐の中は 孤独ではなかった

13「郵便」

 便りを告げる鐘
 なぜにはやる心
 なぜ

 なぜにはやる心
 なぜ なぜ

 我 虚しく待つ
 お前の村から
 便りを

 我 虚しく待つ
 便りを
 お前の村から
 便りを

 風の便りでも
 聴きたい
 お前の
 声
 
 愛するお前の
 便りを

 今さら何待つ
 お前の村から
 今さら

 今さら何待つ
 今さら
 お前の村から
 今さら

14「白髪」

 冷たき真白の 霜に馴染みて
 我は喜びぬ 歳老いたかと

 霜はすぐに融け 黒髪出でて
 若いままの我

 いつまで続く この道行よ
 一夜で歳老う それは幻

 この長い旅路 何も変わらず
 何も変わらず

15「からす」

 一羽のからす
 我とともに
 今日までずっと
 旅の共と

 影
 それは影
 我に添いて

 死の
 その時も
 我に添うか

 この旅尽きる
 その時まで
 からすよ我に
 添いて守れ
 からすよ我に
 添いて守れ

16「最後の望み」

 梢の木の葉に
 想い寄せつつ
 佇む我にも
 かそけき風が

 一枚の木の葉
 望みかけて
 風は戯れに
 木の葉を揺らす

 木の葉は
 地に落つ
 望みと共に

 ひたすら涙を
 ああ 望みつきぬ
 ああ 望みつきぬ

17「村にて」

 犬は吠えて鎖は鳴り
 眠りにつく村人は
 夢に見し宝もの
 夢でのみその手に抱く

 全ては夜露と消え
 さあ、さあ、この身に合わせて
 今を、今を、楽しみ生きて
 そしてまたも高く望み
 夢を見る

 犬よ、さあ、我を追え
 やすらぎに落ちぬよう
 夢に飽き
 眠りさえ
 ただ醒めて生きて行く

 夢に飽き
 眠りさえ
 ただ醒めて生きて行く

18「嵐の朝」

 激しい嵐 空を破り
 雲は乱れて 千切れて舞う
 千切れて舞う

 紅き火花が雲に走り
 これこそ朝 我の望み

 我の心を映したよう
 これぞ我が冬
 我の心
 冬の嵐

19「まぼろし」

 一筋の光り 我に親しみて
 我を惑わしぬ 妖し光もて

 あぁ なんて惨めな
 この妖し光
 夜と氷を そを 隠しぬ
 光は

 ……愛しき姿も

 ……まぼろし
 我 抱く

20「道しるべ」

 人目を避け行く
 この雪の道
 足取りも重く
 一人で歩む
 岩と氷抜け
 この道を
 ただ一人で

 それでもかつては
 共に歩んだ
 人目も避けず
 なのに今はなぜ
 荒れ地を行くのか
 愚かにもなお

 道しるべの立つ
 このひとすじは
 懐かし街へと
 続く細道
 それでもさすらう
 歩み止めずに
 止めずに

 また道しるべが
 我が前に立つ
 我の歩むべき
 ひとすじの道
 二度と帰らぬ

 また道しるべが
 我が前に立つ
 我の歩むべき
 ひとすじの道
 二度と帰らぬ

21「宿り」

 我が行く道は
 奥つ城(おくつき)へと
 我が宿りせん
 ついの住み家

 花束それは
 宿の誘い
 冷たき宿の
 誘(いざな)いなり

 我を拒むは
 何故にか
 脚萎え疲れ
 日も暮れしに

 我を拒むか
 ふたたびまた
 杖に縋りて
 歩み行こう

 杖に縋りて
 歩み去ろう

22「勇気」

 顔の雪など 振り落として
 胸の不安も 歌い飛ばせ

 心叫ぶも 何も聞かず
 心嘆くも 笑い飛ばせ

 楽しくやろう 全て忘れ
 神が居ぬなら 我こそ神

 楽しくやろう 全て忘れ
 神が居ぬなら 我こそ神

23「幻の太陽」

 幻の太陽 御空に留まりて
 我眺むしばし 我がもののごとく

 我は違(たが)えり そはすべてのもの
 我の失いし 二つに同じく

 とく沈み行けよ
 暗闇 慕いて 

24「竪琴弾き」

 退屈な音をたてて 竪琴を弾き村はずれ

 裸足で氷を踏みつ 虚しく情け求めて
 虚しく情け求めて

 誰も耳傾けず ただ犬だけが吠えたて
 それでもそこに立ちつつ 竪琴を弾き続ける
 竪琴を弾き続ける

 この道行 共に行かん
 汝(な)が音こそ 我が歌に



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プロフィール
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学生の頃から、ホールや福祉施設、商業施設などに呼ばれる形で歌ってきましたが、やはり自分たちの企画で自分たちの音楽をやりたいという思いが強くなり、劇作家・作詞家の伊佐山紫文氏を座付作家として私(浅川)が座長となり、「夙川座」を立ち上げました。

私たちの音楽の特徴は、クラシックの名曲を私たちオリジナルの日本語歌詞で歌うという点にあります。

イタリア語やドイツ語、フランス語などの原語の詩の美しさを楽しみ、原語だからこそ味わえる発声の素晴らしさを聴くことも良いのですが、その一方で、歌で最も大切なのは、歌詞が理解できる、共感できる、心に届くということもあります。

クラシック歌曲の美しい旋律に今のわたしたち、日本人に合った歌詞をつけて歌う、聴くことも素敵ではないかと思います。

オリジナル歌詞の歌は50曲を超え、自主制作のCDも十数枚になりました。

2014年暮れには、梅田グランフロント大阪にある「URGE」さんで、なかまとオリジナル歌詞による夢幻オペラ「幻 二人の光源氏」を公演いたしました。

これらの活動から、冗談のように「夙川座」立ち上げへと向かいました。

夙川は私(浅川)が関西に来て以来、10年住み続けている愛着のある土地だからです。
地元の方々に愛され、また、夙川から日本全国に向けて、オリジナル歌詞によるクラシック歌謡の楽しい世界を広げていきたいという思いを込めています。

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