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2017年08月30日

伊佐山紫文43

 28年前、私はまずフリーのライターとして『ライフステーション』に関わることになった。
 当時としては、いや、今でも珍しいことだが、フリーのライターも含めた編集会議が東京で開かれ、私もそれに参加した。
 後に関西を代表する情報誌の編集長になるY氏ともここで知り合った。
 昼間は全員で何やら得体の知れない編集会議なるものを延々とやって、夜は東京組+東京に泊まる神戸組で飲み会である。
 その三次会、編集長I氏が私に声をかけてきた。
「専攻は何だ」
「生物学です」
「だったら、PとかQとかと同期か?」
 編集長は全く知らない人物の名前を次々と挙げるのだった。
「おかしいなぁ、お前、本当に生物専攻か?」
「はい」
「まさか、お前、大学はどこだ?」
「愛媛大学ですけど」
「ハァ! おい、T!」
 と、編集長は私の採用を決めたT氏を呼びつけた。
 T氏は編集長の前に正座した。
「お前、こいつがバカ大出だと知ってたのか!」
「……はい」
「なんで、バカ大出を採用した!」
「……文章が、いいかな、と」
「バカでも文章は書けるんだよ! 文章が書けてもバカはバカ、どうしようもないんだよ、分かってるのか!」
「はい、申し訳ありません」
「まあいい、とっちまったもんはしょうがねえ」
 そう言って、私の方を睨み、
「もういい、どうせお前、バカ大しか出てねえ事実は消せねえ。仕方ねえ、だったらお前、バカ大の星になれ、バカ大でもやれるってことを証明しろ、このバカ大!」
 それから飲み会が終わるまで、編集長はバカ大を連呼し続けた。
 不思議と怒りはわかなかった。
 出版界では東大京大を出ていなければ出世はおぼつかないことなど常識だ。
 それでも何か黒いものがわだかまった。
 それから数年が過ぎて、編集長とも昵懇というような仲になった頃、私は聞いた。
「編集長、僕が愛媛大学出だと、飲み会まで知らなかったんですか?」
「バカか! そんなはず、あるわけねえだろ。お前の採用はオレが直接決めたんだよ」
 結局、あの飲み会の暴言はT氏と結託しての一芝居だったわけだ。
 この編集長I氏は角川に来る前は小学館の編集者で、小学館始まって以来、初めて東大出ではない学年雑誌の編集長になった人なのだった。
「この世界、東大出てない人間がどれほど苦労するか、わかるか。でも、最初にガツンとやられとけば、その後のことはたいてい耐えられるもんなんだよ」
 その頃、私の目の前には前途洋々たる未来しか広がっていなかったから、編集長のこの配慮がいかにありがたいものであったかなど、知るよしもない。
「ハァ」と頷き、ビールを干しただけだった。

 

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プロフィール
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学生の頃から、ホールや福祉施設、商業施設などに呼ばれる形で歌ってきましたが、やはり自分たちの企画で自分たちの音楽をやりたいという思いが強くなり、劇作家・作詞家の伊佐山紫文氏を座付作家として私(浅川)が座長となり、「夙川座」を立ち上げました。

私たちの音楽の特徴は、クラシックの名曲を私たちオリジナルの日本語歌詞で歌うという点にあります。

イタリア語やドイツ語、フランス語などの原語の詩の美しさを楽しみ、原語だからこそ味わえる発声の素晴らしさを聴くことも良いのですが、その一方で、歌で最も大切なのは、歌詞が理解できる、共感できる、心に届くということもあります。

クラシック歌曲の美しい旋律に今のわたしたち、日本人に合った歌詞をつけて歌う、聴くことも素敵ではないかと思います。

オリジナル歌詞の歌は50曲を超え、自主制作のCDも十数枚になりました。

2014年暮れには、梅田グランフロント大阪にある「URGE」さんで、なかまとオリジナル歌詞による夢幻オペラ「幻 二人の光源氏」を公演いたしました。

これらの活動から、冗談のように「夙川座」立ち上げへと向かいました。

夙川は私(浅川)が関西に来て以来、10年住み続けている愛着のある土地だからです。
地元の方々に愛され、また、夙川から日本全国に向けて、オリジナル歌詞によるクラシック歌謡の楽しい世界を広げていきたいという思いを込めています。

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