2017年09月08日
伊佐山紫文50
フルタイムで働いている妻から電話で「今日も残業」と知らされ、
「え~勘弁してよ」と漏らすと、9歳の息子がすかさず、
「お母さん、不倫したの?」
い、いや、そうじゃないけど……
9歳にもなればいろいろ分かってくるんだな、と思う。
いやいや、気をつけなければ。
子供は敏感なもので、私も父母のただならぬ関係には気づいていた。
父は再婚で、前の妻との間に二人の子供がいた。
今風というか、少し古い言い方かもしれないが、いわゆる略奪婚である。
これは田舎町である日田ではけっこうな話題になった、らしい。
そのことは二人の死後、あちこちで聞かされた。
死後、というのが味噌で、生きている間は一度も聞かされたことはない。
雰囲気だけ、ビリビリと。
父の再婚のことも、決定的に知ったのは、認知症になり、後見人を定めるために戸籍を確かめてからである。
それなのに、それを知る前に、同じような設定の、ステップファミリーを描いた処女小説を上梓していたのだから、無意識というものの恐ろしさよ。
父は17で詩壇にデビューし、18で結婚、子供を得た。
まだ高校生である。
戦後の混乱期とはいえ、これだけでも破格、ムチャクチャである。
それからすぐ大学へ進み、中退し、さらに子を作り、そして破局、再婚。
これが田舎町で話題にならぬわけがない。
そのような両親のもとに生まれ、そのような街で育ったのが私である。
ただならぬ雰囲気は生まれた時から感じていたし、実際、ただならぬ事件は何度も起きた。
詳細は省くが、とにかく普通の家庭ではなかった。
今でも夕暮れ時、家々に灯るあかりを見ると、少年の頃の切なさが甦る。
なぜ自分の家にはこんな懐かしいあかりが灯らないのだろう、と。
父は戦後からずっと共産主義を奉じ、ソ連(ロシア)を崇め、共産党の活動家として、家を顧みることなく、党の活動に打ち込んでいた。
無職者に生活保護申請させてその金から党の機関誌代を払わせる、今で言えば貧困ビジネスの一種で、その日田での理論的指導者を気取っていた。
もちろん、自分の懐には一円も入らない。
それでも上から「何部拡大」と言われれば甲斐甲斐しく努力を重ねる。
基本的にお人好しなのである。
それでもやっていることはヤクザと同じだから、シマが重なれば衝突もあったのだろう。
脳を病んで入院した後も「130人のヤクザが病院を取り囲んでいる」という妄想に取り憑かれ、見舞いに来た私の耳元でそれをしつこく囁き「気をつけて帰れ」と付け加えるのだった。
家の郵便受けには得体の知れない新左翼の機関紙が溢れ「闘争」だの「革命」だの「赤色テロルの嵐」だの「何人粛清」だののオドロオドロしい見出しがこぼれていた。
そのような機関誌は父の属していた左派系の文学者の組織「新日本文学会」の名簿から送りつけられてきたもので、共産党員だった父は読まず、陽に焼けるままほったらかしにされているのだった。
共産党と新左翼との差異など子供に分かろうはずもなく、とにかくこの世は地獄であり、滅びの道を突き進んでいて、その破局を止めることができるのはただ「革命」のみであると、それだけはしっかりと理解した。
そして共産党と新左翼の差と言えば、その「革命」への手段が違うだけで、いざとなればみな団結して戦って勝利するのだと。
で、その時、「革命」の側についていなければ殺される。
絶対に殺される、と。
恐ろし~
だから早く「革命」の側についとけ!
子供の理解などそんなものなのだが、その理解がその後の人生をガッツリと方向付けてしまったのだから、まさに恐ろし~
もちろん私は父ほどお人好しではなかったから、すぐに目は覚めたが。
それにしてもテレビで毎日毎日「不倫、不倫」うるさいんだよ。
ただの残業が「不倫」に化けるんだぞ!
少しは子供の教育ってことを考えて番組を作れ。
「え~勘弁してよ」と漏らすと、9歳の息子がすかさず、
「お母さん、不倫したの?」
い、いや、そうじゃないけど……
9歳にもなればいろいろ分かってくるんだな、と思う。
いやいや、気をつけなければ。
子供は敏感なもので、私も父母のただならぬ関係には気づいていた。
父は再婚で、前の妻との間に二人の子供がいた。
今風というか、少し古い言い方かもしれないが、いわゆる略奪婚である。
これは田舎町である日田ではけっこうな話題になった、らしい。
そのことは二人の死後、あちこちで聞かされた。
死後、というのが味噌で、生きている間は一度も聞かされたことはない。
雰囲気だけ、ビリビリと。
父の再婚のことも、決定的に知ったのは、認知症になり、後見人を定めるために戸籍を確かめてからである。
それなのに、それを知る前に、同じような設定の、ステップファミリーを描いた処女小説を上梓していたのだから、無意識というものの恐ろしさよ。
父は17で詩壇にデビューし、18で結婚、子供を得た。
まだ高校生である。
戦後の混乱期とはいえ、これだけでも破格、ムチャクチャである。
それからすぐ大学へ進み、中退し、さらに子を作り、そして破局、再婚。
これが田舎町で話題にならぬわけがない。
そのような両親のもとに生まれ、そのような街で育ったのが私である。
ただならぬ雰囲気は生まれた時から感じていたし、実際、ただならぬ事件は何度も起きた。
詳細は省くが、とにかく普通の家庭ではなかった。
今でも夕暮れ時、家々に灯るあかりを見ると、少年の頃の切なさが甦る。
なぜ自分の家にはこんな懐かしいあかりが灯らないのだろう、と。
父は戦後からずっと共産主義を奉じ、ソ連(ロシア)を崇め、共産党の活動家として、家を顧みることなく、党の活動に打ち込んでいた。
無職者に生活保護申請させてその金から党の機関誌代を払わせる、今で言えば貧困ビジネスの一種で、その日田での理論的指導者を気取っていた。
もちろん、自分の懐には一円も入らない。
それでも上から「何部拡大」と言われれば甲斐甲斐しく努力を重ねる。
基本的にお人好しなのである。
それでもやっていることはヤクザと同じだから、シマが重なれば衝突もあったのだろう。
脳を病んで入院した後も「130人のヤクザが病院を取り囲んでいる」という妄想に取り憑かれ、見舞いに来た私の耳元でそれをしつこく囁き「気をつけて帰れ」と付け加えるのだった。
家の郵便受けには得体の知れない新左翼の機関紙が溢れ「闘争」だの「革命」だの「赤色テロルの嵐」だの「何人粛清」だののオドロオドロしい見出しがこぼれていた。
そのような機関誌は父の属していた左派系の文学者の組織「新日本文学会」の名簿から送りつけられてきたもので、共産党員だった父は読まず、陽に焼けるままほったらかしにされているのだった。
共産党と新左翼との差異など子供に分かろうはずもなく、とにかくこの世は地獄であり、滅びの道を突き進んでいて、その破局を止めることができるのはただ「革命」のみであると、それだけはしっかりと理解した。
そして共産党と新左翼の差と言えば、その「革命」への手段が違うだけで、いざとなればみな団結して戦って勝利するのだと。
で、その時、「革命」の側についていなければ殺される。
絶対に殺される、と。
恐ろし~
だから早く「革命」の側についとけ!
子供の理解などそんなものなのだが、その理解がその後の人生をガッツリと方向付けてしまったのだから、まさに恐ろし~
もちろん私は父ほどお人好しではなかったから、すぐに目は覚めたが。
それにしてもテレビで毎日毎日「不倫、不倫」うるさいんだよ。
ただの残業が「不倫」に化けるんだぞ!
少しは子供の教育ってことを考えて番組を作れ。
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