2017年10月02日
伊佐山紫文77
実家には父の集めたクラシックのレコードが百枚以上あった。
これのほとんどは40年以上前のもので、よくもまあ、公務員の初任給が5万円程度だった時代に、一枚数千円もするものをこれだけ集めたものだ。
ただ、そのコレクションを見てみると、名曲名演主義というか、何冊かのガイドブックに忠実に、まるで視聴覚室のアーカイヴを作るかのように集めてきたことが分かる。
コレクションに偏りがない。
ワルターとカラヤンは枚数としていちばん多いが、これはセット物で買っているからで、バラではそれほどでもない。
若い父が一枚一枚、ガイドブックを見比べながら、おそらく子供たちのことも考えて、吟味して選ぶ姿が思い浮かぶ。
父の死後、レコードを整理しながら、何か暖かいものがこみ上げてきたものだ。
私は学生時代には金銭的余裕がなく、金が入れば即、書籍に消え、結局、一枚もレコードを買うことはなかった。
角川の社員になれと迫られていた28年前の夏、カラヤンが死んで、追悼CDボックスがドイツ・グラモフォンから出た。
60年代70年代の全盛期の名録音を集めたもので、2万円程度、確か、初任給で買った。
懐かしくて、繰り返し聴いた。
これでクラシック愛がぶり返し、しかも金銭的には余裕があるものだから、ガイドブックなどお構いなし、気の向くままにガツガツCDを買いまくった。
ちょうどソ連が崩壊した頃で、旧ソビエト軍が接収していたフルトヴェングラーの戦争中の名演が「ベルリンライブ」と銘打たれ続々とCDとなって店頭に並んだ。
今はなき、懐かしき「ワルツ堂」。
当時フルトヴェングラーにハマっていた私は、もちろん、全部買った。
戦争中というと、まるで爆撃の中、悲惨な状況の中での悲壮な演奏を想像するかもしれないが、それは違う。
ドイツ第三帝国の負け戦さが確定したのは最後の1年少しのことで、それまでは連戦連勝、破竹の勢いでヨーロッパを席巻していた。
演奏に勢いのないはずがない。
フルトヴェングラーと言えば戦後の演奏を讃える一方で戦中の活躍には沈黙するのが一般的だが、私の聴くところ、特に戦後のベートーヴェンなど、戦中と比べれば気の抜けたぬるいビールでしかない。
1942年ヒトラー誕生日前夜祭の第九を聴けば、1951年のバイロイト盤がなんとトロ臭く感じられることか。
バイロイト盤はマイク位置の問題か、やたらとティンパニが強く、まるでティンパニ協奏曲に聞こえ、これだけでもかなりの瑕疵である。
それに比べ、ヒトラーの誕生日を心から祝うフルトヴェングラーと楽員たちの「喜びの歌」!
いちど聴いてみてご覧なさい。
「Heil Hitler!」の一言も叫びたくなるから。
その他、3番も、戦後のどれより、戦前のいわゆる「ウラニアのエロイカ」の方が優れているし、5番、6番、7番もそうだと思う。
特に5番の「ベルリンライブ」盤、これは世評高い1947年盤より緊張感に満ち、第4楽章の凱旋行進では沿道から手を千切れんばかりに振りたくなる。
「Sieg Heil!Sieg Heil!」
それに忘れてはならないのがシューベルトの「ザ・グレート」。
これも戦争中の「ベルリンライブ」盤の方が戦後のスタジオ録音盤より遙かに優れ、何より第1楽章の猛烈なアッチェレランドに、どこか他の世界に連れて行かれそうになる。
それからシューマンのピアノ協奏曲。
ピアノに難はあるが、伴奏が圧倒的に素晴らしい。
透明感のまるでない、曇った音のカタマリがいきなり頭にガツンと来て、あまりの衝撃に死にそうになる。
このような名演の同時代、ヨーロッパは悲惨な状況にあったのだと思うと言葉をなくすが、芸術とはそういうものだ。
ナポレオンの惨禍なくしてベートーヴェンの「英雄」がなかったように、スターリンがいなければショスタコーヴィチもムラヴィンスキーもいなかった。
東独の恐怖政治がなければケーゲルも、スウィートナーも、ザンデルリンクも、そしてマズアやペーター・シュライヤーが活躍することなく、膨大なシャルプラッテンのアーカイヴが成立することはなかった。
無論、逆の、膨大な数の亡命音楽家たち、シェーンベルク、ワルター、セル、ショルティ……
芸術は政治的危機や独裁との相性がとても良い。
これはどうしようもない事実であり、音楽を政治的に聴いてはならない所以でもある。
これのほとんどは40年以上前のもので、よくもまあ、公務員の初任給が5万円程度だった時代に、一枚数千円もするものをこれだけ集めたものだ。
ただ、そのコレクションを見てみると、名曲名演主義というか、何冊かのガイドブックに忠実に、まるで視聴覚室のアーカイヴを作るかのように集めてきたことが分かる。
コレクションに偏りがない。
ワルターとカラヤンは枚数としていちばん多いが、これはセット物で買っているからで、バラではそれほどでもない。
若い父が一枚一枚、ガイドブックを見比べながら、おそらく子供たちのことも考えて、吟味して選ぶ姿が思い浮かぶ。
父の死後、レコードを整理しながら、何か暖かいものがこみ上げてきたものだ。
私は学生時代には金銭的余裕がなく、金が入れば即、書籍に消え、結局、一枚もレコードを買うことはなかった。
角川の社員になれと迫られていた28年前の夏、カラヤンが死んで、追悼CDボックスがドイツ・グラモフォンから出た。
60年代70年代の全盛期の名録音を集めたもので、2万円程度、確か、初任給で買った。
懐かしくて、繰り返し聴いた。
これでクラシック愛がぶり返し、しかも金銭的には余裕があるものだから、ガイドブックなどお構いなし、気の向くままにガツガツCDを買いまくった。
ちょうどソ連が崩壊した頃で、旧ソビエト軍が接収していたフルトヴェングラーの戦争中の名演が「ベルリンライブ」と銘打たれ続々とCDとなって店頭に並んだ。
今はなき、懐かしき「ワルツ堂」。
当時フルトヴェングラーにハマっていた私は、もちろん、全部買った。
戦争中というと、まるで爆撃の中、悲惨な状況の中での悲壮な演奏を想像するかもしれないが、それは違う。
ドイツ第三帝国の負け戦さが確定したのは最後の1年少しのことで、それまでは連戦連勝、破竹の勢いでヨーロッパを席巻していた。
演奏に勢いのないはずがない。
フルトヴェングラーと言えば戦後の演奏を讃える一方で戦中の活躍には沈黙するのが一般的だが、私の聴くところ、特に戦後のベートーヴェンなど、戦中と比べれば気の抜けたぬるいビールでしかない。
1942年ヒトラー誕生日前夜祭の第九を聴けば、1951年のバイロイト盤がなんとトロ臭く感じられることか。
バイロイト盤はマイク位置の問題か、やたらとティンパニが強く、まるでティンパニ協奏曲に聞こえ、これだけでもかなりの瑕疵である。
それに比べ、ヒトラーの誕生日を心から祝うフルトヴェングラーと楽員たちの「喜びの歌」!
いちど聴いてみてご覧なさい。
「Heil Hitler!」の一言も叫びたくなるから。
その他、3番も、戦後のどれより、戦前のいわゆる「ウラニアのエロイカ」の方が優れているし、5番、6番、7番もそうだと思う。
特に5番の「ベルリンライブ」盤、これは世評高い1947年盤より緊張感に満ち、第4楽章の凱旋行進では沿道から手を千切れんばかりに振りたくなる。
「Sieg Heil!Sieg Heil!」
それに忘れてはならないのがシューベルトの「ザ・グレート」。
これも戦争中の「ベルリンライブ」盤の方が戦後のスタジオ録音盤より遙かに優れ、何より第1楽章の猛烈なアッチェレランドに、どこか他の世界に連れて行かれそうになる。
それからシューマンのピアノ協奏曲。
ピアノに難はあるが、伴奏が圧倒的に素晴らしい。
透明感のまるでない、曇った音のカタマリがいきなり頭にガツンと来て、あまりの衝撃に死にそうになる。
このような名演の同時代、ヨーロッパは悲惨な状況にあったのだと思うと言葉をなくすが、芸術とはそういうものだ。
ナポレオンの惨禍なくしてベートーヴェンの「英雄」がなかったように、スターリンがいなければショスタコーヴィチもムラヴィンスキーもいなかった。
東独の恐怖政治がなければケーゲルも、スウィートナーも、ザンデルリンクも、そしてマズアやペーター・シュライヤーが活躍することなく、膨大なシャルプラッテンのアーカイヴが成立することはなかった。
無論、逆の、膨大な数の亡命音楽家たち、シェーンベルク、ワルター、セル、ショルティ……
芸術は政治的危機や独裁との相性がとても良い。
これはどうしようもない事実であり、音楽を政治的に聴いてはならない所以でもある。
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