オリジナル脚本のオペレッタや、朗読とのコラボ、ポピュラーヴォーカルとのコラボなど、様々な場所、お客様に合わせたコンサート、舞台を企画しています!! 夙川、苦楽園がベースです。 どうぞよろしくおねがいいたします。
2017年10月10日

伊佐山紫文86

 ニューヨークの中古ピアノ店に初老の男が入ってくる。
 黙ってピアノの前に座る。
 なにげに弾く。
 !!!!!
 壁が波打ち、店の空気が裏返る。
 モーツァルトのピアノソナタ。
 下町のピアノ店が一気にウィーンの宮廷になる。
「ママ! あのピアノ欲しい!」
 そこにいた子供まで音に飲まれる。
 店員が男にそっと聞く。
「もしかして、アナタは……」
「うん。ホロヴィッツだよ」
 この逸話が本当かどうかはどうでもいい。
 先日、ホロヴィッツのモーツァルトCDをかけた途端、息子が口でトレースし始めた。
 けっこう正確に主旋律を口でなぞり、再現部では自分で別の声部を作り、合わせて歌っている。
 初めて聞いたはずなのに、なんで?
 巨匠のCDをかけていると、こんなことが結構ある。
 本当の名演は子供の心も掴むものなんだと思いつつ、公演への未就学児の入場をどうするかは、主催として悩ましいところである。
 私自身、子供を持つまでは、未就学児の入場など絶対に許してはならないと思っていた。
 そもそもが親のエゴだし。
 自分が聴きたいだけでしょ。
 みたいな。
 けれど、子供を持ち、自分で、自分の作品を上演するようになって、考え方はまた変わって来た。
 預ける場所もないし、仕方がないんだよ。
 毎回、騒ぐなよ、声を上げるなよ、と祈るような気持ちでいる。
 先日も、10月公演のチラシを見た息子が言うには、
「コイノナザンに僕を連れて行こうとしてるんだろ」
 コイノナザン?
 いったいそりゃ何だ?
 ああ、「恋の名残」か。
 そりゃ読めんわな。
「もちろん連れて行くよ」
「嫌だ」
 年頃なのか、「恋」だの「愛」だのを極端に嫌がる。
「とにかく行くの」
「なんで?」
「理由はない。お父さんの作品を観とけ」
「え~」
 ホロヴィッツほどの名演になるとは思えないが、お前が思わず口ずさむような作品を作りたいとは思っているんだよ。
 

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プロフィール
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学生の頃から、ホールや福祉施設、商業施設などに呼ばれる形で歌ってきましたが、やはり自分たちの企画で自分たちの音楽をやりたいという思いが強くなり、劇作家・作詞家の伊佐山紫文氏を座付作家として私(浅川)が座長となり、「夙川座」を立ち上げました。

私たちの音楽の特徴は、クラシックの名曲を私たちオリジナルの日本語歌詞で歌うという点にあります。

イタリア語やドイツ語、フランス語などの原語の詩の美しさを楽しみ、原語だからこそ味わえる発声の素晴らしさを聴くことも良いのですが、その一方で、歌で最も大切なのは、歌詞が理解できる、共感できる、心に届くということもあります。

クラシック歌曲の美しい旋律に今のわたしたち、日本人に合った歌詞をつけて歌う、聴くことも素敵ではないかと思います。

オリジナル歌詞の歌は50曲を超え、自主制作のCDも十数枚になりました。

2014年暮れには、梅田グランフロント大阪にある「URGE」さんで、なかまとオリジナル歌詞による夢幻オペラ「幻 二人の光源氏」を公演いたしました。

これらの活動から、冗談のように「夙川座」立ち上げへと向かいました。

夙川は私(浅川)が関西に来て以来、10年住み続けている愛着のある土地だからです。
地元の方々に愛され、また、夙川から日本全国に向けて、オリジナル歌詞によるクラシック歌謡の楽しい世界を広げていきたいという思いを込めています。

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