2017年10月22日
伊佐山紫文98
昨日10/21に書かれたものです。
いよいよ本日『恋の名残 新説・曽根崎心中』の公演である。
これは私が初めて書いた関西弁の芝居であり、これを関西ネイティブの歌手がどう演じ、台詞を語るのか、昨年の初演の時はドキドキもので眺めていた。
その後いくつかの舞台を経て、関西弁でも違和感なく舞台が進むのを確認して、今回は稗田阿礼以外、すべて関西弁で書いた。
関西で関西人が関西人相手に演じるんだから当然じゃないか、と思われるかも知れないが、そう簡単な問題じゃない。
明治時代に「言文一致運動」というのが起きて、書き言葉を話し言葉に近づけようと、特に小説の文体の改良が行われた。
二葉亭四迷の『浮雲』などがその嚆矢とされるが、一読してわかる駄作である。
むしろ言文一致に逆らうようにして文語で書かれた森鴎外の『舞姫』や樋口一葉の諸作の方が作品として優れている。
文体は作品の要素ではあるが、作品そのものではない。
それが証拠に、名作は言語を越える。
翻訳しても名作は名作である。
それじゃあ、と、大阪の話を標準語で演じて観客が納得するかと言えば、それは違う。
標準語にすることで、何かが消える。
「いてはる」を「いらっしゃいます」に替えることで、そこにある大事な空気が消える。
大道具一式が消えるほどの、大事な何かが消えてしまう。
だったら、関西弁で書けよ、と言う話になるのだが、これがそうはいかない。
ここで関西弁の「言文一致」という問題が起きてくる。
簡単に「言文一致」と言うが、これは単に「話す」ように「書く」ことではない。
そんなに簡単なら、明治の一流の知識人たちがあれほどの苦悩をしたりはしない。
二葉亭四迷はロシア文学に通じていたし、師匠筋にあたるだろう坪内逍遙はイギリス文学の達人である。
「言文一致」は外国語をどのような日本語に訳すかという問題でもあったのである。
口語で書かれた外国語の作品を文語に訳して、それが翻訳と言えるのか?
彼等にとって外国の小説は「言文一致」の口語で書かれており、日本にはそのような口語は当時、存在していなかった。
実際には「言文一致」した言語などどこにも存在しないのだが、そんなことはどうでもいい。
彼等にとっては日本に口語が存在しないこと、それこそが問題だったのだ。
人間の内面を描くにふさわしい口語こそ、日本が近代化するに必要な言語なのだ、と。
これが「言文一致運動」の隠れた動機でもあった。
ここで簡単に「内面」という言葉を使ったが、これこそがヘーゲル哲学の、というより、近代哲学の根幹である。
人間の「内面」つまりは「心」の動きをどうとらえるか。
それは文語じゃ描ききれないでしょう。
やっぱ口語でしょう。
と言うことで、小説家の長い長い労苦の末に、今の小説や戯曲の「口語」が作られた。
この「口語」によって、日本人の「内面」や「心」は十全に描かれるようになった(という幻想を皆が共有した)。
だったら、関西人の「内面」は?
関西人の「心」は?
と、ここでこそ関西弁の「言文一致」が問題となってくるのだが(谷崎潤一郎の『卍』などの試みはあるものの)、困ったことに関西弁の「口語」はいまだない。
すべてこの場での書き言葉での創作となる。
それを演者が演じたとき、観客が観て聞いたとき、一つの関西世界が成立するのか、どうか。
それは、作品そのものが関西人の「内面」や「心」を描き切れているのか、という問題なのである。
九州出身の余所者である私には、息を殺して眺めるしかない。
今日もまた、そうやって息を殺して舞台袖から眺めていよう。
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