2018年11月09日
伊佐山紫文220
ネットで新聞記事を流し読みしていて「身土不二」が「地産地消」とほとんど同義で使われているのに驚いた。
「身土不二」と「地産地消」はもともと真逆の意味で、もう40年近く前になるが、熱烈な「身土不二」派の農民が「地産地消」派の活動を口を極めて罵っているのを聞いたことがある。
「身土不二」の由来や「地産地消」との差異など、ウィキペディアにも載っている程度のことなのに、ちょっとでも調べようとは思わなかったのだろうか。
私なりにまとめれば、「身土不二」は仏教では「しんどふに」と読み、農業運動の中で「しんどふじ」と読まれるようになった。
もともと仏教用語であるから、ここには「土」という「空間」はもとより、循環する「時間」(輪廻)の概念がたたみ込まれている。
アナタの体を作っているのは現在の食物であるより、営々と連綿と続いて来たこの土地の、過去の歴史的な食物なのだ。
だから、伝統的な食生活を変えてはならない。
これが食生活の西欧化に抗する農業運動の「身土不二」なのである。
一方の「地産地消」は、たとえばトマトを食べるとして、遠くの産地のものを買うのではなく、自分たちで作ってしまおうという農協の運動だった。
「地産地消」の旗印の下、多くの生活指導員たちが農村に入り、作物の多様化を押し進めた。
伝統的な「身土不二」を破壊する運動として「地産地消」は始められたのである。
もちろん、「地産地消」派が「身土不二」派を圧倒して殲滅したのは言うまでもない。
ところが、奇妙なことが起こる。
日本の「身土不二」派の書物に感動した韓国の農協幹部が、「身土不二」の名の下に「地産地消」運動を始めてしまう。
ここが面白いところなのだが、日本の精神のバックボーンには大乗仏教があるように、韓国人の精神的な支柱としては朱子学的な儒教がある。
朱子学は大乗仏教に対抗し、仏教的な輪廻、つまり循環する時間をタワゴトとして否定した思想である。
過去からの因果は断ち切られるべきものであり、否定されるべき悪習であることは、政権が変わるたびのドタバタ劇でお馴染みだろう。
「身土不二」も同様に、その歴史性は綺麗に抜き取られ、空間だけがクローズアップされることになった。
であれば「身土不二」と「地産地消」は全く同義になってしまうし、「身土不二」の名の下に「地産地消」運動が行われても、何の矛盾もない。
日本では「身土不二」派はほとんど絶滅してしまい、この語を見ることもほとんどなくなってしまったが、韓国旅行で何か農産物を買えば必ずこの仏教用語の印刷された袋に入れてくれる。
どんな意味かと聞けば「地産地消」という答えが返ってくる。
なるほど、と。
こうして里帰りした韓国的な「身土不二」が「地産地消」の意味で使われるのも、まあ、仕方ない。
ちなみに、「身土不二」派の話を聞いた学生の頃、私淑していた教授が実に興味深い研究を教えてくれた。
どの学会で誰が発表した研究だったのかは忘れたが、「身土不二」派に傾きかけていた私には衝撃だったし、科学を志していた私にはストンと腑に落ちた。
それはこういうデータで、医療福祉の差を補正しても、もっとも「身土不二」を実践しているインドの農民の平均寿命は世界一短く、最も「身土不二」から遠い生活をしているニューヨーカーの平均寿命は世界一長い。
そもそも食物は必ずしも体に良いモノばかりではない。
植物だって自己防衛のために毒をもっている。
でなければ虫に食われまくって子孫を残すことなど出来ないだろう。
もちろん人間にとっては無視できるような微量な毒だろうが、長年そればっかり食べていれば影響が出ないわけがない。
一方の大都市の住人は世界中で生産された食物を少しずつ、多様に食べているから、そもそもの植物の毒の影響は受けにくい。
というのが、論文の結論で、疫学的に言えば腑に落ちる話だ。
長生きしたければ色んなものを少しずつ食べろということなのだろう。
多様なものを消化するためには多様な酵素を作らなければならないから、身体能力の活性化にもつながるだろうし。
どうする?
と、「自然農法」だの何だのといった、妖しい、非科学的・非合理的な方向に傾きかけていた私に教授は問いかけるのだった。
もちろん、科学や合理主義の行き詰まりを感じてエコロジー運動に飛び込んでいった私に、そんなデータなど屁でもない。
それからも出来るだけ「身土不二」や「地産地消」を心がけて数十年が経った。
まあ、これまでのところ大病もしてないし、日本でものを食ってれば、あんがい大丈夫なんじゃないか。
「身土不二」と「地産地消」はもともと真逆の意味で、もう40年近く前になるが、熱烈な「身土不二」派の農民が「地産地消」派の活動を口を極めて罵っているのを聞いたことがある。
「身土不二」の由来や「地産地消」との差異など、ウィキペディアにも載っている程度のことなのに、ちょっとでも調べようとは思わなかったのだろうか。
私なりにまとめれば、「身土不二」は仏教では「しんどふに」と読み、農業運動の中で「しんどふじ」と読まれるようになった。
もともと仏教用語であるから、ここには「土」という「空間」はもとより、循環する「時間」(輪廻)の概念がたたみ込まれている。
アナタの体を作っているのは現在の食物であるより、営々と連綿と続いて来たこの土地の、過去の歴史的な食物なのだ。
だから、伝統的な食生活を変えてはならない。
これが食生活の西欧化に抗する農業運動の「身土不二」なのである。
一方の「地産地消」は、たとえばトマトを食べるとして、遠くの産地のものを買うのではなく、自分たちで作ってしまおうという農協の運動だった。
「地産地消」の旗印の下、多くの生活指導員たちが農村に入り、作物の多様化を押し進めた。
伝統的な「身土不二」を破壊する運動として「地産地消」は始められたのである。
もちろん、「地産地消」派が「身土不二」派を圧倒して殲滅したのは言うまでもない。
ところが、奇妙なことが起こる。
日本の「身土不二」派の書物に感動した韓国の農協幹部が、「身土不二」の名の下に「地産地消」運動を始めてしまう。
ここが面白いところなのだが、日本の精神のバックボーンには大乗仏教があるように、韓国人の精神的な支柱としては朱子学的な儒教がある。
朱子学は大乗仏教に対抗し、仏教的な輪廻、つまり循環する時間をタワゴトとして否定した思想である。
過去からの因果は断ち切られるべきものであり、否定されるべき悪習であることは、政権が変わるたびのドタバタ劇でお馴染みだろう。
「身土不二」も同様に、その歴史性は綺麗に抜き取られ、空間だけがクローズアップされることになった。
であれば「身土不二」と「地産地消」は全く同義になってしまうし、「身土不二」の名の下に「地産地消」運動が行われても、何の矛盾もない。
日本では「身土不二」派はほとんど絶滅してしまい、この語を見ることもほとんどなくなってしまったが、韓国旅行で何か農産物を買えば必ずこの仏教用語の印刷された袋に入れてくれる。
どんな意味かと聞けば「地産地消」という答えが返ってくる。
なるほど、と。
こうして里帰りした韓国的な「身土不二」が「地産地消」の意味で使われるのも、まあ、仕方ない。
ちなみに、「身土不二」派の話を聞いた学生の頃、私淑していた教授が実に興味深い研究を教えてくれた。
どの学会で誰が発表した研究だったのかは忘れたが、「身土不二」派に傾きかけていた私には衝撃だったし、科学を志していた私にはストンと腑に落ちた。
それはこういうデータで、医療福祉の差を補正しても、もっとも「身土不二」を実践しているインドの農民の平均寿命は世界一短く、最も「身土不二」から遠い生活をしているニューヨーカーの平均寿命は世界一長い。
そもそも食物は必ずしも体に良いモノばかりではない。
植物だって自己防衛のために毒をもっている。
でなければ虫に食われまくって子孫を残すことなど出来ないだろう。
もちろん人間にとっては無視できるような微量な毒だろうが、長年そればっかり食べていれば影響が出ないわけがない。
一方の大都市の住人は世界中で生産された食物を少しずつ、多様に食べているから、そもそもの植物の毒の影響は受けにくい。
というのが、論文の結論で、疫学的に言えば腑に落ちる話だ。
長生きしたければ色んなものを少しずつ食べろということなのだろう。
多様なものを消化するためには多様な酵素を作らなければならないから、身体能力の活性化にもつながるだろうし。
どうする?
と、「自然農法」だの何だのといった、妖しい、非科学的・非合理的な方向に傾きかけていた私に教授は問いかけるのだった。
もちろん、科学や合理主義の行き詰まりを感じてエコロジー運動に飛び込んでいった私に、そんなデータなど屁でもない。
それからも出来るだけ「身土不二」や「地産地消」を心がけて数十年が経った。
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