2019年01月07日
伊佐山紫文255
息子が、風呂で、
「光速ってなに?」
と聞いてきた。
もちろん、光の速度のことじゃないことはわかっている。
だから、
「これ以上早く進むものはこの世にないって速さ、だよ」
「本当にないの?」
「ない」
たとえば、時速50キロで進む電車の中で、前に向かってボールを投げたとする。
そのボールが時速20キロだとすると、電車の外で観察する人には、ボールの速度は時速70キロになる。
だとすると、その同じ電車の中で、前に向かってライトを照らしたら、その光は光速+時速50キロということになるのか。
そうはならない。
時速50キロ分だけ、空間が縮むのである。
それはもう、人間の技術では観測できないくらい小さい縮み方だから誰にも分からないけれど。
この光速は、光の速さってことじゃなく、電磁波の速度ってことで、有名なアインシュタインの式でエネルギーと質量を結びつけている。
たとえば原爆。
光速なんて莫大な数が絡んでるから、ほんの少量のウランが猛烈な破壊力で広島の街を壊滅させることが出来た。
実は去年、今年の夙川座公演について考えていたとき、頭に浮かんだテーマが二つあった。
一つは80年前の阪神大水害で、これは谷崎潤一郎の『細雪』にも描かれている。
これと営林をからめて描こうかなと思った。
もう一つは杉原千畝のユダヤ人救済で、実際、日本でユダヤ人を庇い、アメリカに送り出したのは戦前の日本に唯一、神戸にだけ有ったユダヤ人コミュニティであり、それを支えた神戸っ子たちだから、物語はなんぼでも有るはずだ。
と思って調べ始めたのだが、これが、見事に痕跡もない。
神戸市もおそらくは同様の動機から、数年前に市民の体験などを募ったのだが、その後、何の音沙汰もない。
で、ここからは、様々な消息からつくりあげた私の物語である。
全くのフィクションだと思って下さい。
戦前のドイツ、ナチス政権下のドイツでは、アインシュタインの相対性理論はユダヤ的な無神論とされて迫害され、アインシュタインはもちろん、多くのユダヤ系物理学者が亡命を余儀なくされていた。
もちろん、みんなが亡命できたわけではない。
ドイツやドイツ占領下のポーランドにも息を潜めて生きていた物理学者も多くいた。
そして当時、日本では、ウランを濃縮して原爆が作れないかという研究が進められていた。
ウランを産出するのは満州である。
で、その満州ではヨーロッパで迫害されているユダヤ人を受け入れる計画もあった。
ここに、杉原千畝が絡む。
多くのユダヤ人難民に紛れ込ませて、ユダヤ系物理学者を満州経由で日本に送り込むのである。
そして神戸、多くのユダヤ人がアメリカ行きを待っていた。
日米の関係は急速に悪化し、アメリカ行きは焦眉の急となる。
そんなある日、ユダヤ人を匿う神戸のある一家に、一人の男が尋ねてくる。
「ここ、ユダヤ人物理学者がおるやろ?」
と。
何も隠すことはない。
「おるで」
と答えると、すぐに身柄を引き渡せと言う。
原爆の研究に動員するのだと。
「それは出来ひん。彼は平和主義者なんやで、帰ってや」
主人の強力な抵抗にあって、男は帰る。
その間に、主人はユダヤ人物理学者を横浜に送り、無事、アメリカに亡命させることが出来た。
ところが当時、アメリカでは亡命ユダヤ人の困窮が問題になっていた。
アメリカも不況であり、街には失業者が溢れている。
ここで、アインシュタインらが、半分冗談で窮余の一策を思いつく。
当時としては不可能と思われていた、出来るはずもない原爆を飯の種にしようと言うのである。
アインシュタインの弟子が筆を執り、アインシュタイン自らが署名した、原爆開発への大統領への手紙である。
で、始まったのがマンハッタン計画。
これで困窮していたユダヤ人物理学者たちは食いつなぐことが出来た。
どころか、本当に、予期せぬ短期間で原爆を作れてしまった。
でも、とっくにドイツは降伏している。
ナチス憎しで、それも半分冗談で作り始めた原爆である。
それを、まさか日本に使うとは……
神戸でもまさか、である。
自分たちが送り出したユダヤ人物理学者たちが原爆を作り、日本に落とすとは……
こうして神戸の人々はユダヤ人との関わりについて口をつぐむようになった、と。
杉原千畝も同様、すっかり忘れ去られた、と。
上演は不可能ですね。
はい。
「光速ってなに?」
と聞いてきた。
もちろん、光の速度のことじゃないことはわかっている。
だから、
「これ以上早く進むものはこの世にないって速さ、だよ」
「本当にないの?」
「ない」
たとえば、時速50キロで進む電車の中で、前に向かってボールを投げたとする。
そのボールが時速20キロだとすると、電車の外で観察する人には、ボールの速度は時速70キロになる。
だとすると、その同じ電車の中で、前に向かってライトを照らしたら、その光は光速+時速50キロということになるのか。
そうはならない。
時速50キロ分だけ、空間が縮むのである。
それはもう、人間の技術では観測できないくらい小さい縮み方だから誰にも分からないけれど。
この光速は、光の速さってことじゃなく、電磁波の速度ってことで、有名なアインシュタインの式でエネルギーと質量を結びつけている。
たとえば原爆。
光速なんて莫大な数が絡んでるから、ほんの少量のウランが猛烈な破壊力で広島の街を壊滅させることが出来た。
実は去年、今年の夙川座公演について考えていたとき、頭に浮かんだテーマが二つあった。
一つは80年前の阪神大水害で、これは谷崎潤一郎の『細雪』にも描かれている。
これと営林をからめて描こうかなと思った。
もう一つは杉原千畝のユダヤ人救済で、実際、日本でユダヤ人を庇い、アメリカに送り出したのは戦前の日本に唯一、神戸にだけ有ったユダヤ人コミュニティであり、それを支えた神戸っ子たちだから、物語はなんぼでも有るはずだ。
と思って調べ始めたのだが、これが、見事に痕跡もない。
神戸市もおそらくは同様の動機から、数年前に市民の体験などを募ったのだが、その後、何の音沙汰もない。
で、ここからは、様々な消息からつくりあげた私の物語である。
全くのフィクションだと思って下さい。
戦前のドイツ、ナチス政権下のドイツでは、アインシュタインの相対性理論はユダヤ的な無神論とされて迫害され、アインシュタインはもちろん、多くのユダヤ系物理学者が亡命を余儀なくされていた。
もちろん、みんなが亡命できたわけではない。
ドイツやドイツ占領下のポーランドにも息を潜めて生きていた物理学者も多くいた。
そして当時、日本では、ウランを濃縮して原爆が作れないかという研究が進められていた。
ウランを産出するのは満州である。
で、その満州ではヨーロッパで迫害されているユダヤ人を受け入れる計画もあった。
ここに、杉原千畝が絡む。
多くのユダヤ人難民に紛れ込ませて、ユダヤ系物理学者を満州経由で日本に送り込むのである。
そして神戸、多くのユダヤ人がアメリカ行きを待っていた。
日米の関係は急速に悪化し、アメリカ行きは焦眉の急となる。
そんなある日、ユダヤ人を匿う神戸のある一家に、一人の男が尋ねてくる。
「ここ、ユダヤ人物理学者がおるやろ?」
と。
何も隠すことはない。
「おるで」
と答えると、すぐに身柄を引き渡せと言う。
原爆の研究に動員するのだと。
「それは出来ひん。彼は平和主義者なんやで、帰ってや」
主人の強力な抵抗にあって、男は帰る。
その間に、主人はユダヤ人物理学者を横浜に送り、無事、アメリカに亡命させることが出来た。
ところが当時、アメリカでは亡命ユダヤ人の困窮が問題になっていた。
アメリカも不況であり、街には失業者が溢れている。
ここで、アインシュタインらが、半分冗談で窮余の一策を思いつく。
当時としては不可能と思われていた、出来るはずもない原爆を飯の種にしようと言うのである。
アインシュタインの弟子が筆を執り、アインシュタイン自らが署名した、原爆開発への大統領への手紙である。
で、始まったのがマンハッタン計画。
これで困窮していたユダヤ人物理学者たちは食いつなぐことが出来た。
どころか、本当に、予期せぬ短期間で原爆を作れてしまった。
でも、とっくにドイツは降伏している。
ナチス憎しで、それも半分冗談で作り始めた原爆である。
それを、まさか日本に使うとは……
神戸でもまさか、である。
自分たちが送り出したユダヤ人物理学者たちが原爆を作り、日本に落とすとは……
こうして神戸の人々はユダヤ人との関わりについて口をつぐむようになった、と。
杉原千畝も同様、すっかり忘れ去られた、と。
上演は不可能ですね。
はい。
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